やなこクラブ

あぁ^~果てしない~

前職場のぼくのヒーロー

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A先輩。

僕の前の職場にいた先輩だ。

 

社会人1年目。

僕は会社に馴染めないぼっちだった。

 

社会は難しい。

 

パズドラやってるか聞かれて「やってない」と言えば「じゃあお前いらない」やら

BBQでキノコに溜まった醤油をこぼしたら烈火の如く叱られたり…

とにかく難しい。

 

しかも、僕は仕事ができなかった。

それゆえか、コミュニケーションもうまくできなかった。

「お前何だったらできんの?」だとか、

陰で「奴」と蔑称を付けられていたり

客先で「殺すぞ」と真顔で言われたこともあった。

 

 

おまけにたったひとりの同期は超スーパーエリート。

よく悪い意味で比較されていた。

 

「口を開けば開くだけ損をする」

 

そう気付いてからは会社の人間とは何も話さなくなった。

"つまらない奴"

みんながそう思っていただろう。

でもそれで良かった。

飛び込まなければ辛くならなくて済んだ。

 

弊社には月1で帰社日会議というものがあった。

(と言ってもほぼ雑談で、そのあと全員で飲みへ行くだけなのだが)

 

会議の休憩中、

周りでワイワイしている最中、ひとりスマホに向き合う。

調べることなんて別にありもしないが、safariで適当な言葉を検索にかける。

 

(あぁ、今最高にぼっちだなぁ…)

(もう帰りたい…)

 

時間が過ぎるのをただひたすらに待った。

 

「調子どう?」

 

そんな時、声をかけてくれたのがA先輩だった。

先輩は会社のムードメーカーで愛されキャラだ。

先輩はひとりぼっちの僕に寄り添ってくれた。

飲み会の時もひとりにならない様、そばにいてくれた。

それが建前で、たとえ上司への""アピール材料""で利用されているとしても、

もうなんでも良かった。

偽りでも居場所がとにかく欲しかった。

 

でも、少しすると建前じゃないことに気付いた。

先輩は辛い事の相談に乗ってくれたり

家に呼んでくれたり、ご飯も奢ってくれた。

僕に愛称を付けて社内に浸透させて親しみやすくもしてくれた。

 

おせっかいだなと思う事もあった。

けど、純粋にありがたかった。

先輩は会社の人間で唯一信頼、尊敬できる存在になった。

そう、僕のヒーローだった。

 

それから数年後、いつものように会議が始まる。

またしょうもない雑談で終わりだ。そう思っていると

社長が口を開いた。

 

「残念ながら…ウチを退職する方がいます。前へ出て最後のあいさつを。」

 

先輩だった。

それは突然の事だった。

その後、送別会をやって何事も無く終わる。

別れとは何ともあっけないものなんだろう。 

 

それからだいぶたったある日。

社会人1年目当時のA先輩が

会社に馴染めないぼっち だった事を知った。

今の姿を想像できないほど根暗で

会社で「使えねぇ」やら散々言われた挙句、

ほぼ全社員から"お荷物"として仲間はずれにされていた。

誰からも手を差し伸ばされなかったので

ミスや間違いがあっても誰も指摘さえしてくれなかった。

「ダメすぎてみんな見捨てていた」

周りはそう言っていた。

 

でも先輩は変わった。

きっかけは謎だけど、やってやったんだ。

 

それでも、

「あいつ昔はダメな奴だったよな。」と

過去の過ちを掘り返す周りの連中。

 

「あいつすげえ成長したよなぁ。」と

自らも見捨てた癖に急に手のひら返して誇らしげな社長。

 

 

……なんだこいつらは。

なんだか、やけにもやつく感情。

 

何はともあれ、先輩はもういない。

転職理由も嘘で、こんな会社が嫌だっただけなのかもしれない。

本心は分からない。

尊敬も信用もしてたのに

結局、僕は先輩をなにも知らなかったんだ。

 

ヒーローがもう誰も救っていないことを祈りたい。